女性は身体的構造から立ち小便が非常に難しい。
とりわけ、尿を正確に便器へ入れるには技術がいるとされる。
そのため個室で座って用を足すことがほとんどだが、世の中には女性用立ち小便器と言うものが存在する。
女性用立ち小便器
女性用立ち小便器(サニスタンド)は、1930年代のアメリカで初めて発売された。
当時高級品だったナイロンストッキングが普及した際、腰掛式では座った際に伝線などのおそれがあったが、中腰ならそれを防げるためだ。
日本では1951年に東洋陶器(現:TOTO)が製造・販売を開始したが、まだ和服が多く、女性が座らず小用をするとは奇妙な製品だと一般に受け取られたために普及せず、伊奈製陶(現在:LIXIL)などの同業他社も追随しなかったため、1971年に製造中止となった。
日本での使用例
1964年東京オリンピックの際には、女子選手用として国立霞ヶ丘競技場陸上競技場内にサニスタンドが設置された。
実際に(当時の)ソ連の選手が使用した実績が報告されている。
利点
- 迅速(長居しにくく回転効率が良い)
- 便器に触れないため衛生的に使用できる
- 節水効果がある
- 物理的なスペースが少なく済む(特に個室にしない場合)
欠点
- 女性は身体的構造上、尿を狙って放つことが難しく、床/壁/便器などが汚れる
(ただし和式トイレも同様の欠点を抱えるため、サニスタンドの特徴ではない) - 中腰(ホバリング)姿勢で膝を軽く曲げて用を足すため、足腰に負担がかかる
- 便器が特殊であるため、設置費用が嵩む
- 使用例が少ない、恥ずかしいなどを理由に、設置しても使われない可能性が高い
歴史
女性の立ちションは、実はかなり昔から普通に行われていた。
古代から中世までは女性の立ちションは普通だった
西洋
例えば、紀元前 480 年頃の古代ギリシャでの、ヘタイラ(売春婦)がスカイフォス(取っ手付きの深めの容器)に放尿する様子が絵として残されている。
売春婦という特殊な事情と言うこともあるが、紀元前の時代から女性の立ちションが行われてきた証拠である。
また、中世になっても、西洋などでは女性の立ちションが行われていた。
フランソワ・ブーシェ作の絵画に、女性の立ちションの様子を描いたものがある。
ベルサイユ宮殿の庭や廊下は糞便まみれだった、と言う話を聞いたことがあるかもしれない。
当時の西洋には下水道設備が整っておらず、男女問わず庭や廊下で用を足していた。
当時の高貴な女性は、クリノリンでスカートの裾を広げていたが、これはスカートに尿がかかりにくいため用を足しやすかったことも理由の一つである。
日本
日本でも、明治時代初期頃までは、田舎を中心に女性の立ちションは一般的だった。
江戸から明治にかけて、女性の立ちションに関する絵や記述等がいくつか見つかっている。
近代以降は普及が進まない
ところが、下水整備に加え、いわゆる洋服が一般的になってくると、女性の立ちションは減少傾向となった。
日本でも取り上げられるが…
日本において実際に使用され且つ現存するサニスタンドは、先述の旧国立競技場の地下にあるものだけと言われる。
2014年に旧国立競技場は解体されたが、サニスタンドは現在どこかの博物館で保管されているらしい。
先述の動画は、2002~2006年に放送されていたテレビ番組『トリビアの泉』で紹介されたシーン。
他にも、2014年3月21日のテレビ番組『ヒルナンデス!』でも紹介された。
しかし、日本では紹介されても普及どころかお試し導入される様子すらない。
トイレの便器は陶器製であることが多いが、陶器は重いうえ嵩張るため、海外から輸入するという手法を取りにくい。
そのため、便器は国内生産でほぼ賄われるため、国内メーカーがサニスタンドを作らないと普及しないという側面もある。
海外では”お試し”が広がる
一方で、海外ではサニスタンドをお試しで導入してみるケースが出てきている。
まだ普及とまではいかないが、反発意見もありつつ、一定数の受け入れ意見も出始めている。
ドイツのドルトムント空港には女性用の立ち小便器が設置されている。
また、西洋の野外フェスティバルなど十分なトイレ設備の確保が難しい一部の主要な公共イベントなどでは簡易的な女性用小便器(仮設トイレ形式)が使われることもある。
さらに、公共施設などでも試験的に導入されているところも出始めている。
ポータブルデバイス
女性用排尿装置( FUD )、個人用排尿装置( PUD )、女性用排尿補助具または立ちション装置( STP )などの名称で、個人で持ち運び可能なポータブルデバイスも登場している。
こちらは、日本でも登山などトイレの少ない場所に行く女性では既に使用者が出始めている。
一方で、トイレットペーパーを含め、用を足した後のポータブルデバイスの管理に手間が生じるなど、まだ課題が多い。
女性トイレ廃止問題
ここ数年、性的マイノリティ者への配慮などを理由に、女性トイレ廃止の動きも見えている。
男性用小便器とそれ以外(個室)という分け方にする、という男女共同トイレに近い形をとる動きだが、女性専用のトイレが無いことへの反発も出ている。
サニスタンドをしようして、男性用小便器、女性用小便器、男女共同個室の3種類を設けることも可能なはずだが、日本ではまだこの案が議題に上がることすらない。
設置費用や実際の使用者が少ない可能性などマイナス面があるものの、まずは議題として取り上げ、「検討する」ところから始めても良いかもしれない。
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