「野ションができたら一人前」。
新聞記者になることが決まった大学生の頃、同じ女性として相談に乗ってくれた先輩記者から言われた。
その時は「すごい世界にきてしまった……」と驚くばかりだった。
元記事
withnews
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「女性のトイレ問題、先輩の助言にビビった私 古い環境変えるには?」
2022.05.26
本文抜粋
「野ションができたら一人前」。
新聞記者になることが決まった大学生の頃、同じ女性として相談に乗ってくれた先輩記者から言われた。
その時は「すごい世界にきてしまった……」と驚くばかりだったが、今、後輩に同じことは言えない。
女性の社会進出が広がることで認識されるようになった〝言いにくいけど切実な悩み〟。
古い制度や環境に当事者が合わせるのではなく、環境自体を新しくするべきだという考えが広がっている。
先日、取材した消防署のトイレカーは、これからのダイバーシティーを考える上で、大事な気づきにあふれていた。
とにかく慌ただしい高校野球
新聞記者が、こんなにもトイレに行きづらい仕事だとは思わなかった。
例えば、高校野球の地方大会。
球場を担当する記者は、スタンドと記者席を行ったり来たりする。とにかく慌ただしい。
スコアを付けながら、スタンドで選手一人一人が1番良く撮れる場所を探して撮影する。
その合間に、観客席に行って選手の家族や友人に話を聞く。
点が入りそうな試合展開になれば、走ってスタンドの最前列まで移動。
ヒットの瞬間やホームインの場面を撮り逃さぬよう、カメラを構える。
試合を見つつ記者席に戻りPCで出稿する――。
試合の大事な場面を見逃すわけにはいかないので、トイレに行くチャンスは回が変わる時くらいしかない。
でも、球場によってはトイレの数が少なく行列ができることもある。並んでいる間に試合が再開している時は、心底焦る。
スタンドからトイレが遠い球場だと、げんなりだ。
夏真っ盛りの7月に開かれる高校野球の地方大会では、汗をかいて水分補給をしたい半面、飲めばトイレにいきたくなる。
スポーツドリンクを口に含みつつ、水分は控え気味にせざるを得ない。
「野ションができたら一人前」
突発的な事件や事故の取材でも、トイレに困ることがしばしばある。
現場が人里離れていて、周りにトイレを借りられるコンビニや大型商業施設がない時は、できるだけ水分を取らないようにするしかない。
トイレを我慢するたび、10年ほど前、ある女性記者に言われたことを思い出す。
入社前の大学生だった頃のこと。
第一線で活躍していたその女性記者に、食事をしながら仕事について話を聞かせてもらった。
たばこをふかしながら女性記者はふと、こう言った。
「まぁ、野ションができるようになったら一人前かな」
……。もちろん、今はこんなことを言う人はいないが、当時は、何だかとんでもない業界に足を踏み入れてしまった、と思った。
働きはじめてから言葉の意味を痛感したが、私は「野ション」はしたくなかったし、幸いせずに済んできたものの、トイレは切実な問題だと感じてきた。
東京消防庁で活躍する「トイレカー」
つい最近、東京消防庁の取材を通して、火災現場で活躍する消防署員も同様の悩みがあると知った。
火災現場では、炎から署員を守るためあえて署員に水をかけることもあり、全身ずぶぬれになるという。
さらにススや煙で真っ黒で、歩くたびに黒い足跡がつく。
「多様な当事者の視点」があること
考えてみれば、これまでの世の中、特に働く環境は、健康で仕事だけに時間を費やせるかなり絞られた人向けに最適化された設計になっていたと言える。そんな無理な枠組みを大事に残したまま、人間の方が強引に対応させられていたのだと思うと、これは、さっさと変えた方がいいに決まっている。
その時、多様な当事者の声は、社会をより良い方向に変えていくきっかけになる。だから、先輩の前でビビった私にはこう言ってやりたい。
「野ションしてまでネタを取るより、野ションしなくていい社会を考える記事を書こうぜ」
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